The Memory Of Oblivion ~忘却の物語~ 第3偕
ー英雄ー
「ボインちゃん」と呼ばれている私、本名はケイと「お爺ちゃん」と呼んでいるベイリンと旅をすることになった。
私の感情の喪失について、知り合いの魔術師であるロザリーに話を聞こうとお爺ちゃんは提案してきた。当てのない私は了承して、ロザリーが居るウィンターホールド大学へと出発するはずだった。
だけど、唐突ながら私達は「大立石」の前まで来ていた。
お爺ちゃんの提案で祈りを捧げにやってきた。
イリナルタ湖を一望できる高台にある3つの石碑がある。
「戦士」、「魔術師」、「盗賊」の石碑を大守護石と呼び、石碑には太古の英雄たちの力が宿り、石碑に祈りを捧げると守護を受けられるという伝承があるとお爺ちゃんは語る。
ベイリン「スカイリムのノルド達は旅をする前にここで、祈りを捧げる。ボインちゃんの守護星座はわからないが、長い旅になるというのなら、祈りを捧げておくといい。」
ボインちゃん「お爺ちゃん、私の名前はケイだけど・・・。」
ベイリン「胸のボインの印象が強くてなっ!つい。」
ケイ「・・・。」
ベイリン「悪かった。ケイ。祈りを捧げてウィンターホールドに出発しよう。」
私は、それぞれの石碑に触れて祈りを捧げる。
石碑が何か反応することはなく、しばらく時間がたつ。
ウィンターホールドに向かおうとした途中でこちらに来たせいか、時間が遅かった。
ベイリン「夜歩くのは危険が伴う。そのへんで野営しようか。」
ケイ「わかった。」
お爺ちゃんに声をかけられて出発する。私達は、大立石を後にした。
お爺ちゃんと私は野営の準備をして、早めの夕飯を取った。
今日のメニューはパンとキャベツのスープだ。
二人で夕飯を取り、落ち着いたところで私はお爺ちゃんに質問をした。
ケイ「お爺ちゃんは、世界を救った英雄と呼ばれた人なんだよね?なんで私の旅についていこうと思ったの?」
ベイリン「世界を救ったのは俺じゃない。ドヴァキンと呼ばれたアイツだ。俺は彼の仲間であり、友であった。」
ケイ「すごいことじゃないの・・・?」
私は、お爺ちゃんは少し悲しそうな顔をしていたのに気づいた。
ベイリン「・・・本来は、俺が果たす役目をアイツに押し付ける形になってしまった。
・・・いや、過ぎた話だ。」
ベイリン「まあ、君についていこうと思ったのは、困っている美人を助けたかったからさ。」
ケイ「お爺ちゃんらしい。私も誰かを助けられる英雄<えいゆう>になれるかな。」
私は考えていた。感情が少しづつ喪失していってしまうのなら、誰かが代わりに喜んでくれれば良いのではないかと・・・。
ベイリン「『英雄<えいゆう>』なんざ目指すものじゃない。一つ一つ自分のできることを成し遂げていくことのが大事だ。それでも、どうしても誰かを助けたいと強く思うのなら、命がけで強くなれ。誰かを助けるということは、助けたい人たちの倍以上に強くならないといけない。でなければ、こんな時代だから自分自身が死ぬだけだ。」
ケイ「うん・・・。」
ベイリン「・・・俺も『英雄<えいゆう>』を目指そうとした時期はあった。それが間違いだと気づいたときにわかるさ。」
「老化して説教くさくなったようだな、見張りの時間を決めようか。」とお爺ちゃんは言って話は終わった。
でも、私は・・・これから失っていたら、最後は何もないから。何も。
そして何事も無く朝を迎えて、旅を続けた。
ー狼の王ー
リバーウッドからホワイトランまでを一気に通り抜けて、峡谷に差し掛かる。
狼を従えた魔術師が襲ってきたけど、いち早く気づいたお爺ちゃんが瞬く間に2頭の狼を倒していた。
ベイリン「こちらは片付いたな。」
お爺ちゃんがこちらを見たとき、私は盾を構えて、機会を伺っていた。
相手は氷雪の魔法を唱えているが、私を倒すには威力が不足していた。
足りない攻撃力を補うために狼を従えていたのだが、それも意味がなくなった。
魔術師は狼が倒されると逃げようとしたが、後を見せた時に追撃して倒した。
戦闘が落ち着いた時にお爺ちゃんは、この先に居る盗賊団について話し始めた。
ヴァルトヘイムタワーを根城にしている山賊団のリーダーは、元帝国兵士の女性らしく、元々はソリチュードに勤務していたらしいのだけど、ドラゴンの襲撃で同じ帝国兵士だった夫を亡くした。
娘と二人きりになってしまった彼女は、遺族手当てを頼ったのだけれど、スカイリムの首長達は、ドラゴンの襲撃による街の修繕や内戦の影響で財政難に陥っていて、手当てが遅れていた。このままでは娘が飢え死にしてまうと奮起して、山賊団になったとか。
ケイ「なんで、お爺ちゃんそんなに詳しいの?」
ベイリン「この山賊団は、いわゆる公認なんだよ。ある一定の取引のある商人達のみを狙って通行料を要求してくるが、その代わり護衛に参加してくれる。そうして貿易路の安全を確実にしようとしているのさ。」
ベイリン「まあ、リーダーともホワイトランで一緒に飲んだ事のある仲でね。挨拶だけして先に行こうか。」
私達がヴァルトヘイムタワーに近づいた時、お腹に響き渡るような獣の咆哮を聞いた。
ウェアウルフ「グオオオオオオオっ!」
山賊「ぶっ殺してやるっ!!駄犬どもがっ!」
山賊「やってやるっ!」
ウェアウルフ「オオオオオっ!!」
ウェアウルフ「オオオオオオオオオオオ”ッ!!っ!」
山賊「おまえだけでも逃げろっ!」
山賊「おじさんっ!うしろ!!」
ケイ「あれは一体・・・。」
ベイリン「なぜウェアウルフが、徒党を組んでここを襲っているんだ・・・。しかも、ハーシーンのワイルドハントを生き延びた『狼の王』と呼ばれた猛者達が。」
鈍い衝撃音が聞こえた方向を見ると、ウェアウルフが腕を大きく振るい、山賊をいとも簡単に吹き飛ばしていた。
ベイリン「ケイ!後方に下がっていろ。あいつらを相手するにはケイでは荷が重い。」
ケイ「でも・・・。」
ベイリン「いけっ!!ここは俺が引き受ける!」
お爺ちゃんは駆け出そうとすると急に前のめりに倒れかけて膝をつく。
ベイリン「ガハッ!・・・ゴホゴホゴホッ!」
ベイリン「こんなときにっ!ゴホッ!ガハッ!」
ケイ「お爺ちゃんっ!」私は駆け寄る。
ベイリン「大丈夫だ!以前に無理したツケって奴だ。すぐ収まる・・・。」
お爺ちゃんは苦しそうな顔して、あぶら汗を流していた。
ベイリン「狼の王達は・・・こちらにはもう気づいている。」
ベイリン「ケイ、お前は逃げろ。奴等がこっちに来るまでに回復していれば、あいつ等を倒す事はできる。」
ケイ「こっちに来てしまったら、山賊団の人たちは全員殺されているってことだよね。」
ケイ「まだ、あいつ等が来てないなら生きてる人がいるんでしょ。助けなきゃっ。」
ケイ「お爺ちゃんは無理しないで休んでて。私がお爺ちゃんの代わりに助けてくる。」
私は笑えた気がした。
そして私は、すぐに立ち上がり走った。
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ベイリン「待てっ!!」
駆け出した彼女を見ながら呟く。
ベイリン「バカヤロウが・・・。」
ベイリン「だが!もっとバカヤロウなのは俺だ。情けないぞ!」
ベイリン「彼女に、誰かを助けたいなら『命がけ』で強くなれと言っておきながらっ!」
ベイリン「『英雄<えいゆう>を目指すな』と言っておきながらっ!この程度のことで、人々を守る英雄<ヒーロー>の背中を見せれないとはっ!」
ベイリン「ドラゴンボーンの秘術を見せてやるっ・・・・!!」
ベイリン「Ro! Kah!! Dein!!!」
ベイリン「ここからは、英雄<ヒーロー>として命をかけるっ!!」
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私を認識した狼の王たちはすぐにこちらに向かってきた。
まだ生きている人が居るかもしれない。私は逃げたくなる衝動を抑えて立ち向かう。
私は右手のメイスを構えて攻撃に移ろうした。
狼の王「ワガカミノカゴガヨニアランコトヲ。」
呟くように祈りの言葉を言うと同時に私の身体は既に鋭い爪で斬られていた。
何も出来ずに防戦一方だった。
2匹の狼の王の猛攻に私は盾で防ぎきれずに全身を切り刻まれていく。
ケイ「ぐっ・・・!あぅっ!!!」
とうとう耐えきれなくなって、私は盾を落とし、転ばされて無防備な状態になった。
「ああ、私は何もできずに死ぬんだ。」そう確信した。
狼の王達は爪を大きく振りかぶり私に止めを刺そうとしていた。
狼の王たち「グオオオオオオオオオオっ!・・・・・。」
獣の断末魔が聞こえた後に、金属がぶつかり合うような鋭い音が聞こえる。
ベイリン「待たせたなっ!」
狼の王を斬り倒し、私の命を救った英雄<ヒーロー>が目の前にいた。
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狼の王は予想外の敵に距離を取らざるえなかった。
まさか、仲間が一撃で倒されるとは思わなかった。
だが、この男を見た狼の王は納得した。
この男を知っている。
『ワガカミヲイチドコロシタオンテキ』
思考を廻らしているうちに身体にまとわりつく竜の咆哮を象った呪いのルーンは、自分の生命力を奪っていく。この男に敵対しようとしたモノは無機物だろうが生物だろうがこの呪いの咆哮によって蝕まれる。
ならば、決するは一瞬。
カミノカゴにより手に入れた神速の腕でオンテキの首をはねる!
狼の王は動いた。
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まばたきする間もない。
鋭い空気を切裂く音。
あとから聞こえたように響く甲高い金属音。
ベイリン「せいっ!!」
爪を弾いた剣を返し、袈裟懸けに斬り裂く。
更に横一文字にウェアウルフの横腹から薙いだ。
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私は座り込んで、目の前に現れた男に聞いた。
ベイリン「まだ生きているかっ!大丈夫かっ?」
ケイ「うん・・・。回復剤があれば、なんとかね・・・。その前にお爺ちゃん!
若返ってない?」
ベイリン「まあ、これが本来の姿なんだが、事情があってね。老化してしまったのさ。」
ケイ「そうなんだっ・・・!って、色々聞きたいけど、早く助けにいかないとっ!」
ベイリン「他の奴等は、こっちが終わると引き上げていったよ。すまなかった。」
ケイ「そっか・・・。」
ベイリン「後は俺がやっておくから、ここで少し休んでいてくれ。」
ケイ「うん・・・。ありがとう。疲れたから少し休むね。」
そのあとは、あまり覚えていない。
気づけば私は気絶するように眠っていた。
でも、なんて私は無力なんだろう。力があれば良かったのに。
私は落ちる意識の中、後悔し続けていた。