The Memory Of Oblivion ~忘却の物語~
ー旅立ちー
日々を過ごしているうちに、何かを忘れいく気がする。
最近、笑ったのはいつだろうか。泣いたのはいつだろうか。
ずっとここに居てはダメな気がした。
このままでは全てを忘れていってしまう。
だから、私は旅立つ。残酷で厳しい世界に。
旅をすれば、何かを得られる。
亡くしたものを取り戻せると。確信めいたものを感じて。
外に出れば、人の命なんて軽い。
少し道を外れれば、腕に覚えない素人の私なんてすぐに殺される。
最近は休戦協定の期間が終わって、内戦が始まっている。
私は、人の集まりやすいホワイトランを目指す事にしていた。
まずは、そこまでの小さな旅。
ホワイトランまでに着くまでに感じたのは私が弱く、浅はかであったということ。
幸運なのは夜になるころにはホワイトランに到着できたこと。
そして殺されなかったことだ。
ーボインと老兵ー
ホワイトランまでの旅。
それは私の行動が、余りにも無計画だったということに気づかされた。
色々と足りないものが多い。
着いたばかりだったから、何かお腹を満たそうと宿屋の「バナード・メア」に入ると
「ナイスボイン」と、いきなり声をかけられて、セクハラを受けた。
老齢の戦士に怪訝そうな顔を・・・しようとした。
いや私はその顔を忘れてしまったのだ。できなかった。忘れてしまった。
「おっと、すまない。爺になっても、中身が衰えてなくてね。」と
咄嗟に返してきたが、その台詞もセクハラである。私は突っ込みそうになった。
「まあ、何かの縁だ、セクハラしたお詫びに何かおごろう。」
老齢の戦士はそう言うとカウンターの方に向かっていた。私もそれを追いかけた。
「いきなりで悪かったな。ボインちゃん。なにか奢ってやろう。」彼は改めて私に言った。カウンターに居た宿屋の女将は、その言葉を聞くとすかさずに会話に入ってきた。
「ベイリン、あんた・・・ツケは無しだからね。」
「フルダ。俺が飲み代をツケにするわけないだろう。」
フルダ「そう言って、前に旅の女性と散々呑んだあげく、支払い待ったのは何時だっけねぇ?」
ベイリン「おいおい・・・。」
宿屋の女将と老戦士のやりとりを一通り見ると、私は空いているカウンターの席に座った。
ホニングブリューハチミツ酒をフルダに注文した。
私は渡されたハチミツ酒をジョッキに汲み、少しづつお酒を飲みながら、一通りの自己紹介が終えた。老齢の戦士、いや、ベイリンは、私に旅の理由を聞いてきた。
だから、私は旅の理由をこう話した。
「私は、理由がわからないけど、色々な事を忘れてしまった。
だから、旅をすれば取り戻せるんじゃないかって、そう思ったら、居てもたってもいられずに家を飛び出したのよ。」
ベイリンは一瞬驚いた顔をしていたが、私が真剣な顔をしているのを見て
ベイリン「そうか・・・、それは長い旅になるな。」と呟いた。
「変だと思う?」私は彼に聞いた。
ベイリン「何か事情があるようなら、俺が力になろう。」 そう言ってくれた、この老戦士に私は笑った。
いや、実際は笑えてなかった。笑顔という表情を忘れてしまった。
忘れる。忘れるとは、これに関して言うのなら、一体なんだろうか。
なぜ私はうまく表情が表にでないのか。
なぜ、感情は感じて、心では表現できるのに表にでないのか。
そうして夜は更けて、私は宿屋に泊まり朝を迎えた。
私は目が覚めると旅の支度をしてホワイトランを出発した。
昨日の人は、やさしかったなぁ。なんて思っても、伝言も残さずに。
当てもないし、明確な目標がない。そんな旅だから。
『せめて、やさしくしてくれたことは・・・わすれないようにしないと。』
だから、急に後から声かけられたからビックリした。
きっと私の表情は変わってなさそうだけど。
ベイリン「おいおい、ボインちゃん、昨日話をしただろう?置いていくなんてお爺ちゃん悲しいぜ・・・。」
「えっ?何か約束をしてましたか・・・?」
私が忘れていたのか、覚えが無かった。でも自信がなかった。
ベイリン「「何か事情があるようなら、俺が力になろう。」ってね。」
「あっ。・・・」私は思わず声に出していた。
確かに言ってたけど本気にしていなかった。
この時代にそんなことを本気で言う人がいるなんて思ってもいなかった。
「ありがとう。お爺ちゃん。」
ベイリン「美女と旅できるんだ。爺冥利に尽きるもんだ。」
「なにそれ。聞いたことないよ。」
私は、今出来る精一杯のありがとうを彼に言った。笑顔になってないだろうけど。
そうであっても伝わって欲しかったから。
そして、私達は旅に出た。